T.本稿の対象と構成
本稿では、ドイツの慢性疾患の重症化予防プログラムについて、導入の背景、実施体制、実施内容について把握することを主な目的とする。同プログラムは、ディジーズ・マネジメント・プログラム(以下、DMP)と呼ばれており、公的医療保険者(疾病金庫)が運営主体である。ドイツではDMP 以外に、民間のディジーズ・マネジメント・サービス会社(以下、DM 会社)が独自で開発したプログラムを、疾病金庫あるいは民間医療保険会社と提携して提供しており、この提携動向およびプログラムの内容についても紹介する。最後に、政府機関や疾病金庫へのインタビューで明らかとなったDMP の現状と成果、問題点と課題について紹介する。
U.ドイツにおけるDMP の導入の背景、課題、関係者の議論
DMP は、人口高齢化および慢性疾患患者が増加する中で、家庭医を中心として医療供給者間の連携を推進することにより適切な慢性疾患の治療を提供することを目的として導入された。導入時には、DMP に対して医学界からは、導入に批判的な意見もあがった。
V.DMP の特徴と要素、関連する法律、運営主体のインセンティブと役割、実施の流れ
DMPは、まず、リスク構造調整に関する法令で定められたガイドラインに基づき、疾病金庫が実施主体としてプログラムの内容を定め、医療供給者とDMP 提供のために契約を締結して実施される。次に、治療では患者の主体的な参加が求められ、家庭医が患者との相談のうえで治療を進め、必要な場合は家庭医がコーディネーターとして他の医療機関への患者紹介を行う。民間企業は、法律上の制限があるため、データ管理などの役割にとどまっている。
W.DM 会社と医療保険会社の提携およびプログラムの内容
ドイツでは、DMP の対象疾患以外の疾患に関して、DM 会社が独自の重症化予防プログラムを開発し、疾病金庫あるいは民間医療保険会社と提携して、被保険者にプログラムを提供している事例がある。専門のDM 会社であるArztPartner almeda 社は、地区疾病金庫(AOK)などと提携し、うっ血(性)心不全の重症化予防プログラムなどを提供している。
X.DMP の現状および効果
DMP が導入されてから数年が経過し、登録患者数も増加傾向にある。インタビューなどで、現在ではDMP を評価する医師・患者が増加していることが確認されている。また、連邦政府や大学が行った評価からは、地区疾病金庫(AOK)が実施するDMP に関して、患者の健康、満足度、意識に改善の傾向がみられるとの結果がでている。
Y.DMP の問題点
疾病金庫および政府機関へのインタビューによると、患者リスクのスクリーニング、外来(開業医)と入院(病院)の連携、連携推進に役立つ事例の共有化、モニタリングや認可の体制に問題があると指摘されている。
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